ソフトウェア工学の勧め』の勧め

 平成30年(2018年)9月に、経済産業省は『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート』を発表した。

このレポートの中で経済産業省は、「ユーザー企業の既存システムが老朽化、複雑化、ブラックスボックス化し、既存システムの維持、保守に資金や人材を割かれ、新しい情報技術を活用したデータの利活用や連携などへの対応が限定的になってしまうため、このままで推移した場合既存システムを維持・保守できる人材が枯渇し、同時に維持・保守コストがますます増大する(技術的負債の増大)」と述べている。そしてこのままで推移すれば、「2025年(令和7年)以降は年間に最大12兆円の経済損失が生じる可能性がある」とし、それを『2025年の崖』と名付けている。一方でこれからDXを推進すれば、「2030年(令和12年)には実質GDP130兆円の押上効果がある」と試算している。つまり経済産業省はこのレポートで、国内の全てのユーザー企業にDXの推進を提案している。併せてベンダー企業も、「受託開発への過度な依存から脱皮し、新しい情報技術への対応が必要」と述べている。

 このDXを推進するためには、ユーザー企業でまず『DX推進システムガイドライン』を設定し、『「見える化」の指標、診断スキーム』を構築するなど、いくつか行わなければならないことがある。その中で、ユーザー企業もベンダー企業も行わなければならないこととして、人材の育成と確保があげられている。具体的には、「ユーザー企業では、

l  デジタルアーキテクト(仮称):業務内容にも精通しつつITで何ができるかを理解し、経営革新をITシステムに落とし込んで実現できる人材

l  ビジネス革新で求められる要件をもとに設計、開発できる人材

などの人材が、ベンダー企業では

l  新たな技術・手法を使った実装に落とし込める人材

l  最新のデジタル技術を詳しく理解し、業務内容にも精通するITエンジニア

などの人材が必要」と述べている。つまり、質の高い、新たなソフトウェア技術者が必要としている。

 ユーザー企業もベンダー企業も、既存の技術者の中に今すぐにこれらの要件を充分に満たしている人材はいないか、いてもたいへん少ないと思われる。つまり積極的に、これからも人材育成を図らなければならない。その人材育成のためには、『ソフトウェア工学の勧め』が役立つ。

 ソフトウェアの世界に限らないが、人材は「−字型人材」や「|字型人材」よりも、その全体領域を薄くても良いから広くカバーし、その中の特定のところについては充分な深い知識と技術を持った「T字型人材」が望ましいとされている。ソフトウェア工学の世界でこの「T字型人材」を育てるには、この本が適している。理由は、以下の通りである。

l  ソフトウェア工学の領域を、広くカバーしている。具体的には、『ソフトウェアの品質とは何か』といったごく基本的なテーマ、『データ中心アプローチ』、『オブジェクト指向技法』、『ソフトウェア技術者の倫理』などのテーマから、最新の『超高速開発』までを広くカバーしている。

l  この本だけでソフトウェア工学の全ての領域で深く掘り下げることは、意図していない。しかしこの本では全体として『参考文献とリンク先』として250近い国内外の文献や規格、ウェブページを挙げており、この本から出発して特定の分野を深く掘り下げてゆく手立てが講じられている。

l  『用語集』として全体として200を超えるソフトウェア工学に関わる言葉を解説しており、この部分は簡便な『ソフトウェア工学辞書』として使用できる。

 つまりこの本は、新入社員や異動で情報システム部門に新たに配属された人達に、基本的な講習等が終わった後で一部ずつ配布して、興味を持った所からそれぞれのペースで読み進めて貰い、『ソフトウェア技術の基本』を習得して貰うのに適している。質の高い、新しいソフトウェア技術は、この充分な『基本』の上に構築される。

 「DXレポート」の中で、経済産業省は、その中に「あらゆるユーザー企業がデジタル企業になる」と述べている。デジタル企業の核は、ソフトウェア技術である。DXの推進を契機に、積極的にソフトウェア技術者の育成を図りたい。

 

l  DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート」は、以下のURLからダウンロードできる。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/20180907_report.html

l  「ソフトウェア工学の勧め(上、中、下、(全三巻))」、玉置彰宏著、パブフル、2030228日、531日、75日。(「アマゾン」より入手可能 ).

 

以上

 

 

 

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